カズオ・イシグロ「浮世の画家」


浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)

戦争の前と後では、世の中の動きはもちろん、人々の考え方も大きく変わります。

戦死した人は英雄ではなく戦争の犠牲者となり、戦時中に活躍した人は戦犯と呼ばれ、周りから軽蔑の目で見られたり、迫害を受けたりします。

この作品の主人公である、かつては著名な画家であった小野という人物も、急速に変わりつつある世の中に、驚きと困惑を隠せず、今自分が置かれている状況について理解しかねている一人でもあります。
 
娘婿の態度は明らかに冷たくなり、下の娘の紀子の縁談はなかなか進みません。

小野は自分がまだ画家として駆け出しだった頃、多くの弟子達て過ごしたことなどを回想しつつ、娘の縁談を少しでも良い方向に持っていくために小野は昔の仲間に会うなど奔走します。

しかしそこでも思わね冷遇を受け、小野の心は昔のさまざま思い出と現在を行き来します。

一体何が悪かったのでしょうか?戦争でしょうか。時代の流れでしょうか。それとも小野自身でしょうか。私には最後までわかりませんでした。


本編の内容とはあまり関係ありませんが、イシグロ氏は子供の描き方が絶妙です。小野と孫である一郎とのやり取りが私はとても好きです。

特に一緒に怪獣映画を見に行った時のエピソードは思わず笑ってしまいました。

そういう子供っぽい一面を見せたかと思うと、急に大人も顔負けの核心をつくような発言をしたり…

充たされざる者」という作品でもそうでしたが、私はそんな子供の描き方がとても好きです。

評価⭐️⭐️⭐️⭐️