柚木麻子「BUTTER」

主人公の町田里佳は週刊誌の編集者です。

里佳が東京拘置所へある人物に会いに行くところから物語は動き出していきます。

 

その相手はカジマナこと梶井真奈子。

彼女は今、結婚詐欺を働き男性3人を殺害した容疑で収監されている容疑者です。

 

彼女は決して若くもなく美しくもありませんが、裁判での自信に満ち溢れた言動から、マスコミからも世間からも注目を浴びている人物でもあります。

 

全く面会を受け入れなかった彼女に、里佳は、ある方法を使い面会を取り付けることに成功します。

 

梶井は「食」に対して異常なまでのこだわりと執着を持っており、最初は取材対象の一人として接していた里佳ですが、面会を重ねるうちに、徐々に文字通り心も身体も梶井に支配されていきます。

里佳がそこまで梶井にのめり込んでいく背景には、自身が背負っているつらい過去の想い出とも関係があるようです。

 

そしてその影響は、親友や恋人など里佳を取り巻く人間関係にまで及んでいきます。

 

全編に渡り、本の題名である「BUTTER」はもちろん、さまざまな食に関する記述がちりばめられています。

 

バター醤油かけご飯、たらこバターパスタ、フランス料理のフルコース、鉄板焼等々…また冒頭から登場する「ちびくろサンボ」という絵本もこの作品を語る上で欠かせないキーワードでもあります。

 

梶井に支配されていく、というよりは里佳が梶井真奈子そのものになっていくような感じがして怖さを感じました。

 

しかし物語は里佳が親友の伶子とともに、梶井の故郷であり、今も母親と妹が住む新潟県阿賀野を訪ねたことで、また違った色を帯びてきます。

 

親友の失踪をきっかけに、そして梶井真奈子の記事を掲載した週刊誌が世に出たことで、里佳の生活、考え方にも大きな影響を及ぼしていきます。

 

単行本で400ページもある長編でしたが、引き込まれてあっという間に読み終えました。

 

現時点でこの「BUTTER」は柚木さんの最高傑作と読んで良い作品であると私は感じました。

 

作品終盤の七面鳥の丸焼きを皆で食する場面は圧巻です。

評価☆☆☆