カズオイシグロ「わたしを離さないで」


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

ヘールシャムという児童養護施設を舞台にした、内容的にはとても重く、さまざまなことを考えさせられる作品です。

その施設で暮らす子供達はなぜか皆「提供者」と呼ばれていて、保護官と呼ばれる教師達や施設を取り巻く人々からも恐れられています。彼らは学校へは通わず、施設の中で独自の教育を受けています。というか彼らはある年齢に達するまで、外出することすら許されていないのです。

最初から謎の多いこの物語は、自身も提供者である主人公キャシーとその友人であるルースとトミーとの友情を軸にして語られていきます。「提供者」に対する謎は物語のわりと早い段階で明かされます。謎の意味が分かった時、私はなんとも言えず暗い気持ちになりました。
もちろんフィクションであることは十分分かっていますが、ではこれからもこんなことは絶対あり得ない、とは言い切れないのではないかと思いました。

内容は興味深いものでしたが、初めて読んだイギリス文学だったので文体に慣れるまで時間がかかりました。個人的な意見ですが最初に比較的読みやすい「日の名残り」を読んでからこちらの作品を読んだ方がいいかもしれません。
評価⭐️⭐️⭐️