獅子文六「箱根山」


箱根山 (ちくま文庫)

箱根にある老舗旅館である玉屋と若松屋は、実は遠縁関係にありながら昔から犬猿の仲で、足刈一の旅館の座を巡って競いあっています。

玉屋の若番頭である勝又乙夫は利発で人柄も良く、女中とドイツ人兵士の間に生
まれた自分を引き取り育ててくれた玉屋に対して大変な恩義を感じていま。

一方若松屋には夫婦の一人娘、明日子がおり、活発な娘ですが旅館の仕事を嫌っていました。

そんな二人が偶然出会い、進行を深めていきますが、、

箱根山の開発を巡る企業同士の争いと老舗旅館同士の対立、また乙夫と明日子の関係の対比が大変面白い作品となっています。

それぞれの旅館でも跡取り問題に頭を抱えています。

玉屋には老婆と支配人のみで跡取りがいず、若松屋には息子がいますが家を出ていて旅館を継ぐ気は全くありません。

学者肌である主人は元々旅館の仕事にあまり関心はなく、旅館を閉めてしまっても良いとさえ思っている始末です。

そんな時、乙夫に思いがけない話が舞い込み、乙夫と明日子はある大胆な計画を立てます。

二人の選ぶ道がいかにも獅子文六らしく私は好きです。対立する旅館同士の関係も決して決して暗い雰囲気にはならず、むしろ滑稽でさえあるのも氏の作品らしく、最後まで明るく楽しめる作品となっています。

評価⭐️⭐️⭐️⭐️