柚木麻子「さらさら流る」

主人公は井出菫(いですみれ)という女性です。菫はある日偶然に自分のある写真がネット上にアップされているのを見つけてしまいます。
その写真を撮影したのは菫の元彼、垂井光春(たるいみつはる)でした。

菫と光春は大学の四年間一緒に時間を過ごしますが、育った家庭環境の違いが徐々に二人の間の溝を深め、社会人になってからすぐ別れています。

それからすでに6年もの歳月が流れています。

何故今さらこんな写真をネット上に投稿したのか分からず、菫は男性不信、というか人間不信に陥ります。

悩んだ末に親友である百合に相談した菫は、家族に今回のことを話すようにと促されます。

菫から話を聞いた父親は一人で光春に会いに行きますが…

菫と光春が一緒に暗渠を巡る場面が印象に残ります。

全編に渡り至るところで水の流れが描かれています。光春か塾の生徒と巡る水流、百合と菫が自転車でたどり着いた海の風景など…

見る人の気持ちにより、水の流れは寂しくもあり、また希望への道筋であったりもします。

特に仕事を抜け出して雨の中川に入った菫にとって、冷たい川の流れはある転機となります。

暗渠の薄暗さは複雑な家庭環境で育った光春の心の暗い部分ともリンクしているように思いました。

もちろんそれは誰の心の中にもあるものです。菫の心にも、菫の明るい家族の心にも、そして光春の義母の心にも…

作品の終盤で百合は菫をモデルに絵を描きますが、その生命力に溢れた力強い絵を私もぜひ見てみたいと思いました。

柚木さんの作品はいつも心に突き刺さるような感じがします。

特にきつい言葉などを使っている訳ではないのですが、ひとつひとつの言葉が確信をついているというか…


作品を読んでいると、菫の味わった苦しみや痛みを共有しているような気持ちになります。

誰かと付き合ったことのある人なら、もしかしたら誰にでも起こりうるような出来事かもしれない、と思わせるような作品になっています。

菫の心の動きと光春の想いの対比も大変興味深いです。

柚木さんの作品を初めて読む方にもおすすめです(^^)

評価⭐️⭐️⭐️⭐️