小川洋子「口笛の上手な白雪姫」

 

白鳥の美しい表紙の写真が印象的なこの作品は8つの物語が収められている作品集です。

どれも静かな空気が流れている、小川さんらしい凛としたたたずまいの作品となっています。

 

ある作品には吃音の「僕」か発することできなかった言葉をほうきとちり取りと広い集める小さな老婆が出てきたり、またある作品には、兄からもらったお下がりのノートに「かわいそうなことリスト」を書き続けている「僕」が登場します。

 

どれも独特の世界観があり、普通は起こり得ないような不思議なことが起こっても、小川さんが描くと「もしかして、本当にあった話かも…」と思えるようなリアルさがあります。

 

私が特に印象に残ったのは「乳歯」と「口笛の上手な白雪姫」です。

学者同士の夫婦に育てられた「君」とよばれている主人公は、両親とともに訪れた海外旅行先で迷子になります。

 

母親からもらった宿泊先の書かれたメモを手にしたまま、「君」は聖堂の中に入り、石の浮彫を見つけるのですが、その描写がとても迫力ありリアルで、まるで今、自分が聖堂の中にいるような気分になります。

 

「口笛の上手な白雪姫」では「小母さん」と呼ばれている女性が主人公となっています。

 

彼女は公衆浴場で小さな子供を持つ母親が浴場を利用している間、赤ん坊の面倒を見ているのが役割となっています。

いつから始めたのか誰も知りませんが、小母さんに子供を預けた母親は安心し浴場を利用することができます。

 

小母さんが浴場で口笛を吹く場面もとても印象的です。

 

小川洋子さんの作品の世界観が好きな方におすすめしたい一冊です。

評価☆☆☆