獅子文六「おばあさん」


おばあさん (朝日文庫)

太平洋戦争が始まる少し前の時代が舞台となっています。作品名の通り、69歳のおばあさんが主人公です。

子供たちも巣立ち、優雅な隠居生活を送っているかと思いきや、娘の夫の浮気問題や一人娘である孫娘の結婚問題、はたまた演劇かぶれで生活力がない末息子の心配など悩みはつきません。

そんな中でもおばあさんは年長者の経験と知恵を生かしてさまざまな問題に対して、解決の糸口を見つけていきます。

この作品は戦時中に書かれたものなので、戦争を称賛するような感じの文章が多くその点が気になりました。

娘の夫が出征していたり、孫娘が栄養学校に通い兵隊のために食事を用意したり、孫娘の婚約者が結婚式の翌日に出征したり…

この作品は主婦の友社の雑誌に連載されていたので、その影響があるかと思われます。戦時中は雑誌等に関する風当たりが大変厳しく、内容は軍に厳しく監視されていました。

軍に逆らうと当時 は物質不足で貴重だった雑誌を刷るための紙を支給してもらえなかったり、最悪の場合は投獄されてしまうこともありました。

なかなか自分の思った通りの文章を書けなかった当時の状況が、この作品にも反映されていたのかもしれません。

とは言ってもこの作品自体は獅子文六らしい明るさとユーモアに満ちた作品ですので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいなと思います(^^)
評価⭐️⭐️⭐️